「マイクロ法人を作ってみたいけれど、何から手をつければいいのか分からない」——そう感じている方は少なくないと思います。私自身、2020年にIris株式会社を、2024年に株式会社Basilを設立し、現在は3社目・4社目の設立を同時に進めています。会社を作るという作業は、一度経験すると驚くほどシンプルに見えてきますが、初めての人にとっては専門用語も多く、費用の全体像もつかみにくいものです。この記事では、株式会社と合同会社の費用差、オンライン設立サービス(freee会社設立)を使った実際の流れ、そして設立前に知っておくべき「特定創業支援等事業(自治体が実施する創業者向けの支援プログラム)」による費用軽減の仕組みを、実体験ベースで整理します。
マイクロ法人とは何か、なぜ今注目されているのか
マイクロ法人とは、一般的に従業員を雇わず、代表者一人(または少人数)で運営する小規模な法人を指す通称です。法律上の正式な区分ではありませんが、個人事業主が社会保険料の最適化や信用力の向上、副業・複業の受け皿として法人格を持つ手段として広がっています。フリーランスや個人事業主が「まずは屋号で始めて、事業が育ってきたら法人化する」という順序を取ることが多い一方、最初からマイクロ法人として設計し、個人事業と法人を並走させるスタイルを選ぶ人も増えています。
法人化のメリットとしてよく語られるのは、対外的な信用力の向上、契約や取引における法人限定の案件への対応、そして社会保険(健康保険・厚生年金)への切り替えによる将来設計の選択肢の広がりです。一方で、法人には毎年の決算・申告義務や、赤字でも発生する法人住民税の均等割(自治体により金額は異なります)といったランニングコストが伴います。設立前に、こうした継続コストも含めて全体像を把握しておくことが大切です。
私自身、1社目のIris株式会社を作った当初は「とりあえず法人にしてみよう」という感覚に近かったのですが、2社目・3社目・4社目と経験を重ねるにつれて、事業ごとに「なぜこのタイミングで法人が必要なのか」を先に言語化してから設立に進むようになりました。マイクロ法人は作ること自体は難しくありませんが、作った後にどう運営し続けるかまで見据えておくと、後になって「思っていたよりコストがかかる」と感じにくくなります。
株式会社と合同会社、費用はどれだけ違うのか
法人を作る際にまず選ぶことになるのが「株式会社」か「合同会社」かという形態です。両者の一番の違いは、設立にかかる法定費用です。
株式会社の場合、定款認証手数料(資本金の額に応じて3万円・4万円・5万円)に加えて、登録免許税として資本金の0.7%(最低15万円)を法務局に納める必要があります。
ただし、マイクロ法人を考えている人はここで一つ確認しておく価値があります。2024年12月1日施行の公証人手数料令の改正により、(1)資本金の額が100万円未満、(2)発起人が全員自然人で3人以下、(3)発起人が設立時発行株式の全部を引き受ける旨が定款に記載されている、(4)取締役会を置く旨の定めがない、という4つの要件をすべて満たす場合、定款認証手数料は1万5,000円に半減されます(日本公証人連合会「会社の定款手数料の改定」)。一人で、資本金を小さく設定して設立するマイクロ法人は、この要件に当てはまるケースが少なくありません。合同会社の場合は定款認証が不要なため認証手数料がかからず、登録免許税も資本金の0.7%(最低6万円)と、株式会社よりも抑えられています。つまり法定費用だけで見ると、合同会社は株式会社よりも10万円前後安く設立できる計算になります。
ただし費用だけで形態を決めるのは早計です。株式会社は対外的な信用力や資金調達のしやすさで一日の長があり、将来的に株式による出資を受けたい場合や、取引先が株式会社であることを条件にしているケースでは有利に働きます。合同会社は意思決定の柔軟さやランニングコストの低さが魅力で、マイクロ法人のように少人数で機動的に運営したい場合に選ばれる傾向があります。どちらが正解ということはなく、事業の性質と将来像に合わせて選ぶのが基本です。
なお、この法定費用は後述する「特定創業支援等事業」の証明書を取得することで、登録免許税部分を半額にできます。株式会社なら15万円が7.5万円に、合同会社なら6万円が3万円に軽減される仕組みで、設立費用に占めるインパクトは小さくありません。
法定費用のほかにも、実費として発生するものがあります。定款や登記事項に応じて必要となる印鑑証明書の取得費用(1通あたり数百円程度、自治体により異なります)、法人の実印を作成する費用、そして登記完了後に金融機関の口座開設や取引先への提出用として取得する登記事項証明書の発行手数料などです。いずれも数千円単位の出費ですが、見落として当日慌てないよう、事前にリストアップしておくと安心です。
freeeで会社を作ってみた——実際の設立の流れ
私が3社目の設立で実際に使っているのが、freee会社設立というオンラインサービスです。実際の流れは次のようになっています。
まず freee.co.jp/launch にアクセスし、画面の案内に従って商号(会社名)、事業目的、本店所在地、資本金額、役員構成などの設立内容を入力していきます。入力内容に応じて定款や登記申請書といった必要書類が自動生成されるため、法律の条文を調べながら一から作る場合に比べて負担が大きく減ります。
入力が一通り終わると、freeeとのオンライン面談があり、入力内容の確認や不明点のすり合わせを行います。この面談で「取締役が複数人いる場合は、各自の個人の印鑑証明書が2部ずつ必要」といった、書類準備の実務的な注意点も教えてもらえました。実際に私が進めている3社目でも、取締役3人それぞれが個人の印鑑証明書を2部ずつ用意する必要があり、早めに声をかけておいてよかったと感じています。
面談で内容が固まったら、いよいよ登記の実行です。株式会社の場合は定款認証(公証役場)を経てから法務局へ登記申請、合同会社の場合は定款認証が不要なため法務局への申請のみで進められます。オンライン申請にも対応しているため、平日に法務局へ足を運ぶ時間が取りにくい人でも進めやすい点は、会社員時代から複数社を設立してきた実感として大きなメリットだと感じています。
設立前に知っておきたい「特定創業支援等事業」で登録免許税を半額に
意外と知られていないのが、登記の「前」に自治体の創業支援プログラムを修了しておくと、登録免許税が半額になる制度があるという点です。これは産業競争力強化法という法律に基づき、市区町村が実施する「特定創業支援等事業」という創業者向けの支援プログラムで、経営・財務・人材育成・販路開拓の4分野について学ぶ講座や個別相談を修了すると、自治体から証明書が発行されます。
この証明書を登記申請時に法務局へ提出することで、登録免許税の税率が資本金の0.7%から0.35%に下がり、株式会社なら15万円から7.5万円に、合同会社なら6万円から3万円に軽減されます(中小企業庁「会社設立時の登録免許税の軽減について」)。なお、この軽減は租税特別措置法第80条に基づく時限措置で、2027年(令和9年)3月31日までに受ける登記が対象です(期限延長の有無は最新の公式情報をご確認ください・2026年11月確認)。証明書は「登記の前」に取得しておく必要があるため、設立を決めてから講座を探すのでは間に合わないケースもあります。設立を検討し始めた段階で、自分が創業予定の自治体にどんなプログラムがあるかを調べておくのがおすすめです。制度の詳しい内容や自治体ごとの違いは、特定創業支援等事業とは(登録免許税が半分になる制度)で詳しく解説しています。
マイクロ法人設立でよくある誤解
最後に、私自身が相談を受ける中でよく耳にする誤解を整理しておきます。
一つ目は「資本金は多いほど信用される」という誤解です。資本金が大きいほど登録免許税や税負担が増える場合もあり、必要以上に積む必要はありません。事業に必要な運転資金の見立てから逆算するのが基本です。
二つ目は「法人化すれば節税になる」という単純化です。法人化による社会保険料や税負担の変化は、所得水準や事業構造によって大きく異なります。個別の税額試算や有利不利の判断は税理士に相談するのが確実です。
三つ目は「登記さえ終われば手続きは完了」という誤解です。実際には登記後に、税務署への法人設立届出、都道府県・市区町村への届出、年金事務所での社会保険手続きなど、複数の届出が続きます。設立はゴールではなくスタート地点だと捉えておくと、その後の実務がスムーズになります。
四つ目は「個人事業から法人化するときは、必ず個人事業を廃業しなければならない」という誤解です。個人事業と法人を並走させる、いわゆるマイクロ法人的な運営スタイルを取ること自体は制度上可能です。ただし、どの事業をどちらの主体で行うかの整理を誤ると、税務上・社会保険上の扱いで想定外の結果になることもあるため、この点も事前に税理士に相談しておくと安心です。
設立サービスを選ぶときのチェックポイント
freee以外にも、マネーフォワード会社設立など複数のオンライン設立サービスがあります。選ぶ際のポイントとしては、書類作成の対応範囲(定款だけでなく登記申請書まで自動生成されるか)、電子定款への対応(紙の定款では収入印紙4万円が別途かかりますが、電子定款なら不要です)、そして会計ソフトとの連携のしやすさが挙げられます。私が今回freeeを選んだ理由も、設立後にそのまま会計freeeへ移行しやすく、日々の経理までワンストップで完結できる点が大きな決め手でした。
まとめ
マイクロ法人の設立は、株式会社と合同会社の費用差を理解し、freeeのようなオンラインサービスを活用し、そして登記前に特定創業支援等事業を確認しておくことで、費用面でも実務面でも無理のない形で進められます。私自身、1社目・2社目の経験を踏まえて3社目・4社目でも改めて制度を調べ直しており、「知っているかどうか」で数万円単位の差が出ることを実感しています。自分のケースが補助金・助成金の対象になるかどうか気になる方は、下記の診断もあわせてご活用ください。
自分がどの制度に当てはまるか、1〜2分で確認できます
事業の段階・所在地・準備状況から、いま確認しておくべき制度の方向性を表示します。入力は不要、無料です。なお、採択を保証するものではありません。
免責
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務・法務・登記手続きに関する助言ではありません。具体的な判断は税理士・司法書士等の専門家にご相談ください。制度内容は2026年9月時点の情報であり、一次情報にあたって確認しています。補助金・助成金の採択を保証するものではありません。